湯気とは
家賃の振り込みの日。手数料300円が気に入らない。四畳半に住んでいた頃、隣りの大家さん宅へ支払いに行った。元バレエをやっていた奥さんは掃除好き、穏やかな旦那さんはまめにアパートの修繕をする。築50年を超える建物は廊下の床が抜けようと嵐でガラス窓が落っこちようと、清廉潔白に気品と風格を持ち合わせていた。ビール好きの夫婦の夕餉はじゃがいもと玉ねぎ炒めが多かった。質実健全で愉快な人たち。お世話になりっぱなしのまま離れて四半世紀が経つ。安否を伺うのが怖い。昨夜より鋭角に光る三日月を眺めながらいつもの店。縮みほうれん草のおひたし、ブリのかまの塩焼き、キムチ鍋。なんという贅沢。それでも冷えた足は温まらない。