心残りとは
昔の物はとにかく重かった。箪笥、洋服、食器に至るまで、ずしりと重量感のある物が尊ばれた。それはもう半世紀も前のこと。四半世紀前のコートはすでにダボダボ、重すぎて肩が凝る。今はなきブティックで買ってもらった誕生日の贈り物でもあるし、焦げ茶色のビロードは色あせていないのだから捨てられず家の中で防寒に着てみた。かつてよそ行きの装いも、今はただ源氏物語の末摘花が着ていた黒貂の皮衣のようにみすぼらしく滑稽にしかみえない。空色のタイツを履けば似合うはずなのだ。靴下屋で探してみよう。それでダメなら諦めもつく。重たい食器類は見事に捨てられたのにな。