非情とは


中華屋が暖簾出してる。青白い顔のマスター。まず「聞きました」と。奥さんの訃報に軽々しくお悔やみを云ってはいけない気がした。動きが緩慢、足元がふらついてビールの栓抜きが見当たらない。かなり飲んでるな。身の上話がはじまる。早稲田の二文に通ってライターになりたかった過去。「これから先、どうやって生きていけばいい?」答えなんかないよ。今を生きるだけだよ。線香だけ渡し、いつもの店で飲み直し。帰りに中華屋の灯りが消えていた。行ってみると店の中でマスターが倒れてる。救急車呼ぼうか?と訊いたら大丈夫だと云うので、コートをかけてそっとしておく。無情だろうか。酔っ払いに救急車呼んでも迷惑なだけ。騒いじゃいけない。