五月の風とは


半分の月がとても遠い。暦の上では八十八夜、茶摘みがはじまる季節。家の前は万年草の黄色い絨毯。過保護に育てすぎたのか、ひょろひょろ背丈が高い。ごく普通じゃない日常をのらりくらりと交わしながら必死で生きてます。隣りの玄関先にナガミヒナゲシが咲いて、オレンジと黄色とロベリアの紫が五月の風に揺れる。死期の迫った立原道造が恋人に「五月のそよ風をゼリーにして持って来て下さい」とねだったのは有名な話。五月になると彼の詩と建物のスケッチ画を想い出す。「萱草」という詩の中で立ち止まる。
それはあの日の夏のこと!
いつの日にか もう返らない夢のひととき
黙つ(ママ)た僕らは 足に藻草をからませて
ふたつの影を ずるさうにながれにまかせ揺らせてゐた