口語体とは
幸田文の言葉はおもしろい。「とすとすという歩き方」「すぽんとした」「どおんどおん、かっかっか、わっしょいわっしょい、神輿のざわめきが伝わってくる」。そして着物を着ていた人特有で色彩感覚が鋭い。色の表現が豊かでその眼差しの厳しさをずしずし感じる。寝床でランタンのうすくらい橙色の灯りの中で小さな活字を舐めるように読み、ようやく目が見えなくなって本を閉じるまで、彼女の生きのいい闊達な語調にゆさぶられているのだ。今日、いつもの店で牛タン入りハヤシライスというメニューがあり、食べてみたいなぁとはしゃいだらマスターが小皿に盛っててくれた。やさしい味が胃に沁み、もったいなくてちびちび食べる小心者。