桃の節句とは


子どもの頃は4月3日がひな祭りだった。ひなあられなどといった洒落たお菓子などなかった時代、おばあちゃんが買ってくれたガラスの箱の中には菱餅や団子、桜のような桃のような木々もあり、ちいさな世界は完成されていた。甘酒を飲んだ記憶もある。30年以上放ったらかしにしていたお詫びに、わたしのお雛さまは一年中出しっぱなしでテレビの横に二人並んで微笑んでいる。見ていたら途方もなく寂しくなって散歩に出た。どこまでも歩けそうな気分だったが途中で方向転換、いつもの店の重い扉を開ける。頬を赤らめている人々の顔がやけに懐かしい。静かな夜。桃の花がほんの少しずつほころびはじめた。