はるか彼方とは


昨日、書けなかったこと。ロメールの『春のソナタ』の最後にテロップで「字幕 寺尾次郎」という文字を目にした時、ほろ苦い思い出が蘇った。もう30年以上前、ゴールデン街のジュテで何度かお見掛けした。彼の名を知らない映画人は多分いない。華奢で飾りっ気のない少年のような瞳と端的な言葉に優しさが滲み、その毅然とした佇まいは強烈に脳裏に焼き付いている。訃報を聞いたのは2018年。世話になったママさんたちも皆70を超え、苦労もひとしおだろう。あの店でお会いした中でいちばん素敵な人、女性は美子さん、男性は次郎さん。ふたりともあっちにいっちゃった。底知れない不安に打ち負かされないためにもう一度あの時間を咀嚼する。