恩恵とは
「あの世に持っていけるのは、人に与えたものだけだ」『バベットの晩餐会』を30年ぶりに観た。デンマークの貧しい漁村で牧師だった父の教えを守り貧しくも敬虔な暮らしを貫く老姉妹の元に一人の女がやってくる‥19世紀北欧の暗い空のようにずしりと重たい雰囲気を纏った映画なのに何故か惹き寄せられる。この世の全てを手に入れた将軍の虚しさを埋めたのはシェフとしの誇りを失わなかったバベットの料理、愛する人への半世紀に渡る想いが真実だと知った時、初めて世界が美しいと感じる。時々手作り野菜を買う喫茶店の前にカモミールによく似た花となでしこが「ご自由に」と包み紙を添えて置かれていて躊躇いつつ頂いてきた。部屋に爽やかな風が吹く。