ナイーブとは
切ないという感覚。胸が締め付けられる、息が詰まる、五感すべてが敏感になる。そんな気持ちに浸りたくなると思い出すのは若い頃に通った喫茶店。粗末な椅子、傾いたテーブル、コップに入ったかすみ草、大学ノート、ステッドラー6Bの鉛筆。名曲喫茶ライオンでは蛍光灯の仄蒼い照明だけの薄暗い店内でクラシックに揺さぶられてひたすら自分の心の弱い部分と向き合った。当時300円のコーヒーは今600円になったらしい。ジャズ喫茶マサコは手づくり風ベンチや家具がごちゃごちゃした極彩色の雑多な店内で大音量のジャズにのめり込まず創作ノートにペンを走らせた。ひとりぼっちが心地よかった。宝物だった青い皮の表紙のノートはもうない。