兵役とは


空が白んでくる時の富士山はいい。清々している。バスが隣町の海岸沿いを走っている時、沖の桜えび漁船がきらきら波立つ海の向こうに見えたし、駅に降りるとお墓だらけの山が出迎えてくれた。故郷の風景の中にいるだけで落ちつく。しかし二ヶ月放ったらかしの庭は草ぼうぼう。夜が明けるまでアトリエの片付けをして古紙のごみを出し、一心不乱に花鋏に力を込めた。素手なのに途中で止められなくて中指を切るまで草を刈った。燃えるごみを出し、残った里芋の塩茹でと庭のニラを土鍋で煮て食べるともう動けない。とにかくお湯を浴びて帰ることだけに集中する。踏んばって四時間、わたしの駅では街中がジャズに包まれていた。つづく。