血筋とは


大雨で部屋が暗い。母方の祖母と一緒に寝た夜を思い出す。彼女のお下がりを着ているせいだろうか。当時の彼女の年齢をわたしは追い越しているはず。そう考えるとぞっとした。両親と兄が富士登山に行った日にわたしは祖母の家に預けられた。小さな家はしんと静まりかえり樟脳と線香と年寄りの匂いが漂っている。色褪せた祖先の写真、わら半紙のような畳の感触、清潔なガーゼの寝間着、ひんやり冷たい布団で老人の匂いに包まれて眠った。いわゆる戦争未亡人、二度も夫に先立たれ、出来の悪い子どもたちを抱えて苦労したに違いない。ちっちゃな働き者は100歳目前まで生きた。わたしは母よりこの人が好きだ。何の欲も持たない可愛らしい人は泣き虫だった。