浮遊とは


クリスマスイブのきらきらした空気はこの街に似つかわしくない。
おしゃれをして腕を組んで歩くカップルには出会えそうもない。チキンを揚げる油の匂いがいつもより強く感じられるだけだ。生暖かい風を受けながら寂しい商店街を抜けて銭湯まで歩く。がまんして熱い湯に何度も浸かり、キャッと悲鳴を上げるほど冷たい水風呂に入った。出た後は皮膚がじんじん痺れて体が軽くなる。見上げればオレンジ色の十三夜の月。ぶらぶら気の向くまま足の向くままに任せる。いつもの店にチョコレートを差し入れし、霞んでいく夜の町を遠くに眺めながら帰る。メリークリスマス。