紛失とは


病院に行くのは慣れっこだ。自分のために行くのなら全くダメだけど、他人事ならへっちゃらになった。気後れもしないし、むしろ堂々と振舞うようにしている。観察眼は抜かりなく、温度湿度空気も大事、おおよそ院内は暑すぎる。病室では他の患者さんの話し声に耳をそばだて、その場の明るさを判断する。こぢんまりとした清潔な病院だった。肺炎の彼はいくぶん青白い顔。抗生物質と点滴のせいか目に力が戻り、もはや病人には見えなかった。毎日の洗濯物を届ける彼女の方が疲弊している。お疲れさま。魚のおいしい店で乾杯。宮城のお酒を飲みすぎた。記憶なし。買ったばかりの帽子を失くす。タクシー会社に電話したが出てこないだろうな。かなしい。