インスタントとは

ふしぎな風景。高さ3尺の樹に鈴生りのレモン。大人の身長ほどの庭木からすずめの狂乱じみた大合唱。歩きながら意味不明な言語で喋り続ける太った男。師走の町は静けさと虚飾が入り混じる。とてもさむい。生まれて初めての料理を思い出す。遊びに来た従弟にねだられてフライパンを取り出しインスタント焼きそばを作った。すっかり底に焦げ付いた焼きそばの味を憶えてはいないけれど、可愛らしい小さないとこと二人きりの記憶は残る。劇場の楽屋で先輩が作ってくれたサッポロ一番塩ラーメンをみんなで分け合って食べた。芝居が跳ねた後に小屋で一升瓶を囲みペヤングソース焼きそばをつまみに飲んだ。貧しかったけれどたのしかった時代。

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