内緒ごととは
朝焼けが始まる前の富士山が好きだ。怒りを溜めて素っ裸のまま眠っている姿にも気品があって、こっそり独り占めする罪悪感に酔う。オレンジ色の空が広がってゆくのをただ眺めていたいけれど正気に戻ってひたすら身体を動かす。三ヶ月ぶりの母はひどく達者にみえた。それでもなお強欲に検査を望むのが哀れでならない。待ち時間に兄と三人で食堂のテーブルに座るのもちょっとした儀式みたいでそわそわする。最後の検査で麻酔が醒めるまでは待ちきれず、一足先に帰路につく。雄大な富士山が目の前に迫ってくるので居眠りできぬまま高速バスは東京都心の黄昏時を連れてきた。途中、窓から見たお腹の黄色いキツツキはルリビタキの幼鳥。わたしの街に戻って親しい人たちと一杯。疲れている暇もない。