雛壇とは
ようやく梅のつぼみがふくらんだ。田舎のひな祭りは旧暦で行われたので三月三日に甘い感傷はない。十六夜の月に誘われてのこのこ夜に繰り出す。ポンプ屋の玄関に五段飾りのお雛さまが飾られ、道ゆく人の目を止める。気もそぞろでまっすぐ歩けない。来週から校正の仕事を頼まれたから、今週は思い切り飲むぞとはりきったものの、カウンターの隣りで聞きたくもない話をされてひどく気分が落ち込んだ。人の噂話って苦手。心配している振りをしながら残酷でうす汚い。心の底から助けを呼んだけど、無理。一杯で席を立つ。まだまだ甘ちゃん。ひとりぼっちのお祝いにまぐろの赤身食べた。蛤に赤い花模様の長襦袢を貼り合わせて作ったひいなが家で待ってる。