異空間とは


古本屋に心残りがあった。小さな箱に古い指輪が並んでいて、桑の実色と云うのがまさにぴたりとくる暗い赤紫色の指輪と翡翠色の指輪かで迷って諦めたのだけれど、200円という値段でおろおろした自分が恥ずかしい。あれは二つとも買うべきだ。もう一度店を訪ねる。するとまさにそのふたつだけがなくなっていた。あれ、趣味の合う人がいたのね。性懲りもなく立ち呑み屋で憂さを晴らすつもりが、入口すぐのテーブルで3人の女性と男性1人が大騒ぎしていて、床を片言の兄妹が床を這い回っている。足元に来られた時はさすがに母親を睨んだが、大重音で笑っていた。独り言で「うるさいなぁ!」と吐き捨てたら隣りの男性の背筋がピンとする。もう二度と行く事はない。