一人前とは


鳥たちの声が聞こえない。静けさに包まれた朝。ちいさな花々が咲くちいさな庭にしゃがみ込んで緑に触れていると、どんどん気が遠くなっていく。手をかけるたのしみにぶるぶる震える。日々のことがおろそかになっても、ひそやかな時間は丁寧に扱わなければ何かを失くしてしまう。ぬか床に手を入れると無心になるように、時の流れを忘れることが生きていくための秘伝なのだ。初めて東京駅の地下街を歩いた時、牛丼屋の臭いにくらくらめまいがしたほど世間知らずだった田舎者は、酒場のカウンターでおじさまたちと軽口をたたくほど肝が据わる。大切なのは決して出しゃばらないこと、それぞれの人たちのおもしろみに敬意を払うこと。