抽象とは


白い朝の空気がひどく懐かしい。朝焼けは雨の前兆らしいけど、東の空はねずみ色に沈んだままで、ウィレム・デ・クーニングの烈しい筆使いで描かれた赤い抽象画みたいに鮮烈な夜明けの時間は訪れてはくれそうにない。夏の子ども服を選り好みして気を晴らす。いつまでこんなベビードールが着られるだろう。似合わなくなった時はこの世とおさらばだ。食欲がなくなると物欲すらなくなる。ビールと日本酒とちょっぴりのつまみがあれば足りる。冴えない人生でも密やかなたのしみがあれば、そこだけは光り輝く。玄関先に棲みついたカナヘビと挨拶したり、一日30分ほどしか滞在しないミミコの背中の模様を眺めていると、ここにいる意味がみつかる。