憧憬とは
彼女の端正な顔をよく思い出す。美少女というより美少年と云った方が近い。青白い肌とほっそりとした体つきは大理石の彫刻みたいな質感、大きな切れ長の目と形のいい鼻と薄桃色の唇、頭が良くて運動神経抜群、誰もが鋭敏な印象を受ける。そんな彼女と一緒に運動部の合宿の調理を任されたことがあった。献立は忘れたけれど、ポテトサラダのマヨネーズを手作りしたのには驚かされた。まるで魔法だった。確かその打ち合わせを兼ねて彼女の家を訪ねた時のことだ。平屋の家は狭かった。しかし入った瞬間、神聖なものを感じた。抜かりなく磨かれ、手入れの行き届いた清潔な部屋にまごまごして何を話したか憶えていない。きれいな人はずるい。