憧憬とは


キリンレモンは高級だった。夏の夕方、父がくれた小遣い銭で炭酸を買いに行く。三ツ矢サイダーじゃなくてキリンレモンを選ぶのが大人びている気がした。兄と三人でコップに分け合ってストローで飲むと、のどがびりびりして汗が引いた。あの頃の郷愁なのかストローは今でも抽斗に入っていて欠かしたことはない。それは上品な行為として身についている。高校の頃、ファンタグレープを飲む時にも瓶にストローを挿した。吉行淳之介がエッセイでキリンレモンが好きだと書いていて、ひどくうれしかった。確か二日酔いの薬はオレンジジュースで、強引に酸を胃に流し込んで痛めつけるというバンカラな行為が妙に洒落てみえた。真似をしたことはない。