反権力とは


その人の声が好きだった。高音のハスキーボイスに鹿児島弁の温かい響き。社長、編集長、ボス、どんな肩書きも似合わない孤高の人。もう30数年が経っている。新宿ゴールデン街でその人を先頭に編集者、カメラマン、新聞記者たちと飲み歩き、外車のスポーツカーで送ってもらって四畳半の部屋に帰ると夜は白々明けるところだ。あの頃大人だった人たちの年齢はとっくに追い越している。その人の訃報から時が止まってしまい、今ここにいることが不思議でたまらない。あの頃の仲間たちの顔を思い描けても、わたし自身の顔が見当たらない。当時の貧しい暮らしだけが懐かしく、そしていとおしい。