救い船とは
失くしん坊、トラウマの言葉。ちいさな頃、集落の慰安旅行で遠いところに行った。地下鉄か何かの列車を降りたとたん、お気に入りの藤籠バッグがない。母親が鬼の形相で罵りまくり、泣くこともできずに縮こまっていたら、父親が反対の電車にひらりと乗り、瞬く間に戻ってきた。手に籠を持って。たのもしかった。そして遊園地に着くと、あったはずの入場券がない。母親ははらわたが煮え繰り返り、わたしの耳元でずっとこの言葉を繰り返した。父親は云った。「この子はいろんなことを考えているんだよ」この言葉に助けられて生きてきた。こんな助け舟を出してもらえなければ、誰だって道を誤ってしまうかもしれない。