エロチシズムとは
以前にも書いた記憶があるが、やはり木山捷平「日本の旅あちこち」の中の数篇は読んでいる。この紀行文は昭和40年から43年の間、著者が還暦を過ぎた頃に書かれた。伊豆への旅で電車に乗り合わせた団体客のうち、(50代のおばあさん)が羽目を外した言葉を発する場面がある。50を過ぎたらおばあさんなのだとガックリしたのだった。あけすけな庶民の艶話も軽妙かつユーモラスな語り口で飄々と描かれるとどこかしら哀愁が漂う。そうして「くたばれくたばれといって鳴くカラス」を詠った最後の詩を残して昭和43年、64歳でこの世を去ったことを考えると、死の直前に地団駄を踏む気持ちで著者らしくもなく精力的な旅をしたのだろう。