死の予感とは
『港町』で書き残したことがある。この映画を牽引したお節介な老女は85歳独り暮らしの淋しさゆえか、ニューヨークから来たという知識人風のカメラを持った男に対する劣等感の裏返しか、嬉々としてあからさまにあらん限りの恥部を吐き出す。この一見元気な老女の佇まいが祖母に酷似していて、彼女がみせる痴呆の初期症状が切ない。1、手の平をさすり続け大仰に寒がる。2、盲目の一人息子を泥棒された告白(障害年金を盗られた)。3、みじめな境遇を生き抜いた矜持と、幾度も自殺を試みた脆さをみせ哀れを誘う。そして生き生きと幼女に還っていく姿が白いソックスと突っ掛けから立ち上る。彼女は撮影から一年後に死去。三日間、頭を悩ませた。