喪失とは


長い長い夜だった。深夜0時半、多少痛みの治まった目をかばいつつ山田風太郎の『戦中派虫けら日記~滅失への青春』を読んだ。医者へ行くまで8時間の恐怖をふり払うように。昭和17年、戦争の真っ只中ストイックな哲学を信条に生きる孤独な二十歳の青年の悲壮な誇りと憂鬱、自分との対話の記録と共に陰惨な世相を描く。ちくま文庫600頁の半分(昭和18年)まで。シャワーを浴びて眼科へ。隣町のかかりつけ医は家から20分ほどの所に引っ越していた。8時半きっちりに受付。キリリとした女医さんは呆気なく「うん、角膜きれいだね」と云った。目を擦りすぎて腫れたのか、ステロイド入り目薬を処方される。開放感というより喪失感にとらわれた。