風物とは
かき氷の情景。灯油や炭を売る燃料店の軒先に夏の間だけ氷の暖簾が下がる。埃っぽいガラス窓の向こうにいかつい鉄製の機械がでんと座っていて、赤と黄色と緑のシロップの瓶の淵に長い柄のスプーン。へそ曲がりの子どもはいつも人気のない氷レモンを得意げに頼み、透明な氷みつをかけただけの物が好きだと云う母をいじましく感じる。一斗缶や練炭が積み上げられた薄墨色の土間は歪んでいて、質素なテーブルと椅子はどれも不安定に立っていた。一杯いくらだったのか。冷蔵庫に練乳の缶があるとこっそり指につけて舐めるくらい甘い物に飢えていた。卵もバナナも贅沢品、猫は鰯節かけご飯。貧しいとは気づかず生きていた。そんな遠く古い時代の記憶。