自画像とは


選択肢がなかった。小学生の美術の教科書に載っているのは所謂巨匠たちの絵ばかり。家に画集が沢山あったから『どの画家が好き?』の質問には迷わず『ここには載ってませんがクレーが好きです』と答えた。イヤなガキだ。授業参観で母親の顔を描かされ、肌色を使わずにピカソの自画像みたいな絵ができあがった。先生は内心困ったなと思っただろう。評価は避けた。しばらくの間、教室の後ろに貼られた抽象画は周囲のやさしそな肌色の女たちを威嚇し続けた。高学年になってから教室に行商人がルノワールやゴッボの絵を売りに来た。印刷技術の悪いそれらの名画を鼻で笑った記憶がある。ほんとうにイヤなガキだ。だからわたしは子どもがきらい。