屠殺とは
「ブッチャー・ボーイ」国書刊行会2022年1月発行。著者はアイルランドの作家パトリック・マッケイブ。数ページめくっただけで1960年代初頭、アイルランドの救いようのない凄惨な現実にぶち当る。アル中の父、自殺を繰り返す神経衰弱の母が好んで聴いた曲が「肉屋の小僧」。ブタ呼ばわりされ差別と偏見の中で狂気と妄想に取り憑かれてゆく少年の孤独に終わりはない。母国で出版されたのは1992年、キューブリック監督が映画化したのが1997年、日本では同年に神戸連続児童殺傷事件が起こり未公開となる。訳者が生涯の一冊とし、邦訳されるのに30年かかった。わたしがアゴタ・クリストフの「悪童日記」に受けた衝撃に近いものを感じる。