香を焚くとは


朝、お湯を沸かして一杯の日本茶を飲む。カーテンを開けても仄暗い部屋も日の出から二時間ほどはわずかに陽が差し込んで窓辺にグラデーションができる。それを逃すと一日中とぼしい電球の下で目をしょぼしょぼさせなくちゃならない。二階に上がってあまりの明るさにめまいを起こしたこともしばしば。猫がいなくなって陽だまりにいる意味がなくなり、ほかほかする陽射しを背中に浴びるとなぜだか辛くなる。陽が落ちてから散歩に出た。夜を照らすいくつものオレンジの灯りに怖じ気づく。知らんぷりで素通りして家に戻ると線香と茶葉の混ざり合った生気のない匂いがする。ほとんど生き物の気配がない。