誰にも忘れられない食事がある。時々思い出すと、それはとても質素な食べ物ばかり。二十代の頃、いかに貧乏だったか。深夜の芝居小屋で数人でつついたカップ焼きそば、楽屋で先輩が作ってくれたインスタント塩ラーメン、新宿三丁目のスナックのママ宅の朝ごはんは冷麦、色んな薬味が泣けた。いつも空腹だった。どんな贅沢な物より五臓六腑に沁み渡った。味の記憶はまた別のところにある。母の料理のことは省く。親友の作ったおでんやじゃがいもの冷製スウプ、ゴールデン街のママの人参サラダなど、当時炊飯器も鍋も持っていなかったわたしには夢のようなごちそうだった。昔のように一人前の食事は到底ムリだけれど、きちんと食べる努力はひつよう。