非日常とは


午前四時、トントントンと勢いよくまな板を叩く音が聞こえる。鰯を焼く匂いが立ち籠める。五時になる。「とし〜とし〜」70近い母が40を過ぎた息子を起こす声。五時半、新聞配達のバイクの音。六時八分、向かいのオッチャンが外の冷蔵庫を乱暴に開け閉めし、やっちゃ場へ出かける。隣りの家でトイレを流す音。斜め前の家からは朝シャンの匂い。十時過ぎ、やっちゃ場から戻った向かいのおばちゃんと奥の家のオバちゃんの井戸端会議。声がでかい。ここは長屋だ。ため息をつく。怖い夢で三時に起きた。場当たりもせずに舞台がはじまり、衣装小道具のセッティングもできてなく、台詞をすっとばし、出演者全員から総すかんを食らい、大事なシーンをカットされる。あぶら汗がでた。