ノスタルジアとは


昭和30年代、壁に掛かっていた温度計の目盛りは確か30℃までだった。赤い液体は色をつけた灯油だとは思いもしなかったが、はっきり憶えている。静岡では真夏でも30℃を超えることなどあり得なかった。打ち水と夕涼み。小川の水音。南部鉄の風鈴の音色。父と兄と三人で飲んだキリンレモンの味。サッカー生地のパジャマ。貧しくても豊かな時代。東京で冷房なしの四畳半にいた二十歳の頃、32℃で汗だくになってた。今なら死んでる。夜までエアコンつけずにいたらイカれてトイレや台所の電気を消し忘れる。深夜になっても二階の南部屋が40℃、わたしの北向の部屋が35℃。いくらなんでもムリ。3時間タイマーかけて寝た。